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2012.01.12

即興

 昭和を代表するスターの一人、都知事の弟。昭和の終わりを待っていたかのように五十代で死去。
 
 この人は、自分の看板番組だった刑事ドラマ二つで、最終回に台本なしで一人で語るシーンを撮っている。一つは殉職した部下に霊安室で。一つは取調室で被疑者の親族に向かって殉職した部下のことを。前者を仮に部下Wとし、後者を仮に部下Oとしよう。
 
 部下Wを演じる俳優は、スターさんのプロダクションの重役である。当時いろいろな映画のオファーがあったらしいが、会社の看板番組をしょっているだけあって断らざるを得なかったという。映画全盛期を知っている人だ。無念だったに違いない。スターさんは劇中の部下に語りかける体で、そうまでして自社の番組に出演し続けてくれた俳優をねぎらっている。
 
 部下Oは、その番組が最終回を向かえた時点で、演じていた俳優が唯一物故していた登場人物である。スターさんが重病で主役であるにもかかわらず番組を長期にわたって休演した際、部下Oを演じた俳優はみずからも病身だったにもかかわらず主役の穴を何とかふさごうと番組に出演し続け、その無理もたたってか夭逝した。部下Oが番組内で殉職したときの様子を訥々と語り、「命は尊い。死なれると残された者はこんなにつらい」と切々と訴えるスターさんの姿は、しばしばテレビ番組で放映され、「伝説のアドリブ」とも呼ばれている。
 
 しかし、部下Oを演じた俳優、言ってしまおう、沖雅也のファンなら誰もが知っている。スターさんが語った「部下Oの最期」は、間違っている。
 
 それでも最期に沖のことを語ってくれたことに感謝したいというファンももちろんいる。しかし私には、部下Oは、いや沖雅也は、番組に殉じたと言ってもスターさん自身の身代わりになったと言っても決して過言ではない自死した青年は、スターさんにとっては「殉職したたくさんの部下の一人」でしかなかったように見える。
 
 それがスターのスターたる所以であろう。「俺が頭を下げているんだ」で何でもすませてしまう。私には想像できない世界に生きている人がいる。世界は広い。私は小さい。

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Top of UK

 原題はStreetdance。イギリス初のダンス映画(正確にはストリートダンス映画。「フル・モンティ」とか「リトル・ダンサー」とかあった。あれはダンス映画じゃなくて炭鉱映画か?)らしい。ストリートダンスのチームがクラシックバレエのダンサーをチームに入れなければならなくなり、当初反発し合うもののやがて、という青春映画の定石通り。
 
 ただし、「無理解な大人」ではなく「れっきとした(しかも格上の)」対抗勢力(バレエ)が登場するあたりが階層社会イギリスっぽい。ストリートのメンバーがみな「昼間の仕事」を持っているのに対して、バレエダンサーは仕送りでレッスンを受けている。実家が大金持ちな練習生もいる。ストリートに最初に理解を示すバレリーノ(男性のバレエダンサーはそう呼ぶらしい。劇中ではバレエボーイと呼ばれている)はアルバイトをしている苦学生のようだ。小さいことだがあり得ない話を「ひょっとしたら」と思わせるのはこういう細やかさだ。
 
 レッスンバーを挟んで互いの身のこなしを誇示して挑発し合うシーンが猛烈にいい。異種ダンスバトルである。ここできちんと反目し合っておかないと、後半がいかにも出来レースになってしまう。
 
 バレリーナにストリートダンスを踊れというのは、歌舞伎役者によさこいソーランを踊れと言うようなものか? 狂言師にストリートダンスを踊れというようなものか? しかし日本には近い例が実際にいくつもある。ミュージカルに主演して海外公演を打つ歌舞伎役者、現代劇で映画に出る狂言師。プロレスに進出して「狂言プロレス」と揶揄された狂言師さえいる。ジャンル間の垣根が彼の地では日本よりはるかに高いのだろう。「ストリートもバレエもない。ただダンスだけがある」という言葉の重みが、今ひとつ伝わらないので、イギリス人とは見方が異なっているはずだがそれはやむを得まい。
 
 ストリートのチームがバレエ学校の稽古場を借りるに至る流れがテンポよく描かれているのが小気味よい。「ストリートダンスなのになぜ路上で踊らないの?」という至極当然な疑問にもきちんと答えている。しかもその場しのぎではなく、他のシーンでも整合性を保つためにきちんと配慮して「かなりの頻度で路面が濡れている」。
 
 バレエ学校の廊下を歩く練習生が、「いかにも」な姿勢なのがいい。本当に練習生をエキストラに雇ったのだろうか。「タカラジェンヌ」の物まねをする芸人がいるが、あれの端正な感じ。本当にあんななんだ。
 
 主人公はストリートダンスの素人だったという。猛特訓をしてUKチャンピオンを目指しているといってもおかしくないところまで踊れるようにしたという。バレエダンサーたちも長いブランクを猛特訓で埋め合わせたという。ロイヤルバレエ団を目指しているように見えるところまで持ってゆくのがいかにもプロだ。
 
 それほど多くのシーンを割かれないのだが印象深いのが、「長身過ぎてロイヤルバレエ団を受験させてもらえない」というバレリーナ。演じている女優自身が実際に経験した屈辱らしい。柔道漫画『YAWARA!』の「のっぽのねえちゃん」こと伊東富士子さんのようだ。
 富士子さんがバレリーナとして培ったリズム感と柔軟性、そしてバレリーナとして致命的だった長身を利して柔道界で頭角をあらわすように、長身のバレリーナにはあっと驚く見せ場が用意されている。ちょっと泣きそうになる。
 
 実は身近に、「小柄すぎてオーディションを受けられない」というダンサーがいる。彼女にも、小柄でなければつとまらない踊りが見つかりますように。

 

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